アニマルウェルフェアという考え方

アニマルウェルフェアとは?

アニマルウェルフェアという言葉は、最近耳にする機会が増えてきた言葉だと思います。しかし正しく理解されていない方も多いのではないでしょうか。例えば、動物愛護の考え方とは似て非なるものです。そういったことも含めて書いていこうと思います。

アニマルウェルフェアとは、主に家畜が中心ですが、西欧文明から発せられれた動物への配慮の倫理です。家畜の健康という経済的な実利に通じることから、急速に国際的に認知されてきている考え方です。

動物愛護との違い

愛護の倫理は、「動物の愛護及び管理に関する法律」の中で定義されています。この法律をみると、動物を愛し護ろうとする気風やそれに伴う情操涵養が目的であると謳われています。

つまり、愛護では主体は動物ではなく人です。動物に配慮した結果として、動物がどう変わったのかは問われていません。加えて、命あるものの取り扱いを問うものなので、最終的に命をいただくことになる家畜の考え方とは異なります。

対して、アニマルウェルフェアとは動物が幸せな状態であるかを問う倫理と言えます。主体は動物です。私たち人間の行為が動物の望みに沿った生活に貢献できているかどうかが問われます。

なぜなら、正常行動ができないと家畜の生産力が減少してしまい、損失が発生するからです。家畜がどういう状態かを問うので主体は家畜ですが、その目的は人のためでもあるということです。

国際的に共通認識となっている「5つの自由」

乳牛を経済的な道具としか思っていないような国もありますが、世界的に注目されてきているアニマルウェルフェアの考え方は次の通りです。①動物には十分なエサと水が与えられること、②快適な環境が確保されること、③病気やけがの予防・治療が行われること、④その習性にあった活動・運動ができること、⑤脅かされたり、乱暴に扱われたりしないこと。

分かりやすくするために簡潔に書いてみました。それぞれについて少し解説をしていきたいと思います。まず、①についてですが、健康と活力を維持させるために新鮮なエサや水を十分に提供するということです。②については強い日差しを避けるための庇蔭(ひいん)場所や快適な休息場所などの適切な飼育環境を確保が必要ということです。

③はそのままの意味ですが、病気や怪我の予防をして、もしものときは的確な診断と迅速な処置をしてくださいということです。

続いて④についてはちょっと分かりづらいかもしれません。十分な空間、適切な刺激、そして仲間との同居という意味です。アニマルウェルフェアは酪農に限らずの概念ですが、酪農に関して言えば、1頭あたりの牛床数や哺乳子牛の群飼などを指しています。

最後に⑤について說明します。人が叩いたり蹴ったりするのがダメなのは言うまでもありませんが、袋小路などになっていると自分より強い牛から逃げることができません。動物が心理的苦悩を避けることができる状況および取り扱いの確保が必要だということです。

以上がアニマルウェルフェアの基本的な考え方となる「5つの自由」の說明になります。「自由」とあるように、主体は人ではなく家畜です。先ほど說明した動物愛護の倫理のように人が動物をどう思うかではなく、人の行為に動物がどう感じ、生活しているかが問われる考え方です。

アニマルウェルフェアの経済効果

最後に、アニマルウェルフェアに反する行為をしたときの影響について說明します。乳牛では、手荒に扱う人の顔を覚え、その人がいるだけで搾乳量が減り、残乳量が増えることが明らかにになっています。ストレスホルモンであるグルココルチコイドが搾乳を促すオキシトシンを抑制するためです。

わたしが以前勤めていた牧場は200頭の牛を搾乳していました。1頭当たりの1日の平均乳量は32キロ程度でした。手荒に扱う人がいると1~2キロほど減少するという印象です。

仮に2キロ減だとして計算すると、200頭分で400キロの生産減になります。単純化するために1キロ100円で計算すると(実際はもっと安いですし、地域によっても違います)、1日当たり4万円の損失です。一年間が考えると1,460万円の損失になります。

これは牛を手荒に扱ってしまっている牧場は、牛の気持ちになって牛を大事に扱うだけで、数百万円以上の経営改善が可能ということです。追加の経費も掛かりません。動物が可愛そうだからいうのはもちろんですが、経済的に考えても家畜を大事に扱うことは必須であると理解されたのではないでしょうか。

ストレスホルモンが分泌されると、エネルギーの消耗と免疫性の低下をもたらすことも分かっています。健康と生産力の低下が起これば、日々の乳量だけでなく、牛の病気や事故による損失も増えるでしょう。なにより毎日接している家畜が幸せそうにしていると、畜主にとっても大きな喜びになります。

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