「乳牛」という言葉の誤解を解く

乳牛はいつでもお乳を出せるのか?

こんな疑問を持たれている方も多いのではないでしょうか?乳牛とは乳用に利用するために、遺伝的能力が高い個体同士をかけ合わせて改良されてきたものです。お乳を出す能力が高いだけで、いつでもお乳を出せるような都合のいい動物ではありません。

牛は我々と同じように哺乳類ですから、妊娠出産を経て初めてお乳を出すようになります。お乳を出すのは子牛を育てるためですね。搾ったお乳は人間が利用させていただいていますが、牛自身は人間のためを思ってお乳を出しているわけではありません。自らが産んだ命を育てるためにお乳を出すのです。


お乳は出産後の約10ヶ月間搾乳されます。その後2ヶ月は乾乳といって、次のお産の体力を回復させるためにお乳を搾らない期間があります。ちなみにですが、出産後約2ヶ月で人工的に受精されますので、お乳を出しながらも常に妊娠している状態です。ですから乾乳をしてやり、体力を回復させる期間が必要になるのです。

乳牛にも性別があるのか?

これもたまに聞かれることがあります。乳牛という言葉の響きから、雄も雌もなく、牛乳だけを出してくれる都合のいい動物だと思われている方が意外と多いのです。ですが、先程申し上げたように、牛は我々と同じ哺乳類です。当然、雄と雌の性別があります。

そして、本来は雄と雌が交配することにより、雌が受胎します。受胎後、約280日間の妊娠期間を経て出産して初めてお乳を出すのです。ちなみに雄と雌のが生まれる確率は大体半分半分です。

乳牛の雄はどうなるのか?

雄牛は成長しても、お乳を出すことができません。ですから、優秀な遺伝子をもつごく一部の雄牛は種牛となり、それ以外の雄牛は去勢され、肥育農家で肥育されてお肉になるのが一般的です。スーパーでただ「国産牛」と表示されているものはホルスタイン乳牛の雄がほとんどでしょう。また、種牛といっても精子を採取されるだけで雌牛と交配したりはさせてもらえません。繁殖の99%は雄牛の精子を雌牛に人工授精されています。

海外では、生後すぐに屠畜されてペットフードの原料になったり、ヴィールという仔牛肉になることも多いです。仔牛肉はフランス料理やイタリア料理では古くから好まれている食材です。日本ではあまり需要がないので、北海道の一部で少量生産されているようです。

イチローファームでは、繁殖は自然交配をしています。種牛のイチロー君が雌牛と自由に恋愛しています。イチロー君は愛媛の牧場で生まれ、生後19日の時に広島の市場に売られ、当時わたしが勤めていた島根県の牧場に種牛用として買われてきました。

本来であれば、去勢されてとっくにお肉になっていたはずの命です。宝くじにあたるような確率で、精子を採取されるだけの種牛やお肉になる運命から逃れたのです。


乳牛の雌はお乳を出さなくなったらどうなるのか?

牛は、基本的に経済動物として飼われています。乳量が落ちてエサ代や経費の採算がとれなくなった雌牛は、牧場に置いておいてあげることができません。ですから、いわゆる「廃用牛」として屠畜されることになります。また、乳量が維持できていても年をとると乳質が落ちてくるので、同じく廃用になります。

こういったお肉は肉質が固いので、そのまま食用にはならないようです。加工食品やペットフードの原料等にされます。また、割合は多くないかもしれませんが、肥育することによって肉質が改善されて評価の高い食用のお肉になることもあるようです。

牛本来の寿命は約20年と言われています。ですが、家畜として飼われている以上はその寿命を全うできる個体はほとんどいないと言えるでしょう。

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