牛には角が生えるの?
最近では、牛には角がないとか、雄だけが角が生えていると思っている方も多いのではないでしょうか。牛乳パックに描かれている放牧された乳牛も角がないですから、そう思われるのも仕方ないですね。でも、実は子牛のときに除角されているだけで、本来は雄も雌も角が生えているんです。あ、山口県が主産地の無角和種という肉牛も希少ですがいることにはいます。基本的には角のある品種が多いです。また、角の有る無しは品種で決まるので性別は関係ありません。
雌も角が必要なのかと質問されたことがありますが、野牛のガウルなどは外敵が襲ってきたときに子牛を守るように取り囲んで、敵を追い払うそうです。外敵も1頭でないことも多いでしょうから、雄牛だけで群れの牛全てを守ることはできません。自らと自らの子を守るためには雌牛も闘い、生き残らなければなりません。だから、雌にも角があるのではないかと私は考えています。
除角は必要なのか?
乳牛は除角すると従順になり、管理者の安全性が増すとともに、牛社会の闘争も緩和されます。牛舎内で飼う場合には牛同士が傷つけあってしまいますし、人間にも危険があります。わたしの知り合いに雌牛の角でどつかれて意識不明の重体になった女性がいました。おそらく全体の0.1%の牧場にも満たないと思いますが、種牛を飼って自然交配する場合などはほんとうに注意しないと危険です。雄牛の闘争本能は可愛がってさえいたら安心というものではありません。旦那が雄牛に攻撃されて突然目の前から消えてしまい、よく見たら牛舎の上の梁にぶらさがっていたという話もあります。
また、牛に攻撃する意志がなかったとしても、虫を追い払おうとして、突然頭を振ることもあります。当然ですがまともに当たったらただでは済みません。よほどの強い動機とノウハウがないのであれば除角する必要があると私は思います。ただし、つなぎ飼いの牛舎で飼う場合などは牛同士が傷つけ合うことがほとんどなく、人間にも危険が少ないので除角しないこともあるようです。
ちなみにですが、イチローファームでは除角していません。しかも先ほど危険だと言った年頃の種牛もいます汗。普通に世話をするだけではこうはいかなかったと思いますが、母牛同然にべったりと世話をしてきたので、有り得ないくらい穏やかな子に育ちました。もちろん全く危険がないわけではありませんので、外部の方が来たときなどは絶対に雄牛にだけは近づかないようにしてもらっています。
除角の方法
もっとも簡単な方法は、角の生長点を電気ゴテでドーナツ状に焼烙することです。除角はできるだけ早く実施したほうが、子牛に与える影響が小さくなり、予後も良好です。シカの角は切っても翌年には生えるようですが、牛は一度きちんと除角すると基本的には生えてきません。他には、1~3週齢に棒状苛性カリによる除角もあるようですが、浸出液が垂れて醜くなったり、処理が不十分な場合には変形した角が生えることもあるそうです。さらに週齢が進んで、角がしっかりと生えてくれば除角リングや除角鋏を使うことになります。
ある牧場で、年をとってから、行政の指導で止む無く除角された雌牛を見たことがあります。明るくやんちゃな性格だったそうですが、人への警戒心が非常に強く神経質になってしまっていました。やはり、除角するのであれば早い段階でしたほうがよさそうですね。
除角の思い出と決意
私がかつて働いていた大牧場では電気ゴテで焼く方法をとっていました。処置をする前に麻酔を打ち、意識が朦朧としている状態の子牛の頭を一人ががっちりヘッドロックして押さえつけ、もう一人が除角用の電気ゴテで焼くという作業でした。麻酔をしているのに、声にならないような必死な悲鳴をあげる子牛が忘れられません。私は一度だけ押さえる係を経験しましたが、もう二度とやるまいと心に決めました。先ほど、基本的には除角は必要だと説明しましたし、その通りだとは思います。でも、焼きゴテ係のスタッフも言ってましたが、強姦ってきっとこんな嫌な気持ちになるんだろうなと。普通の飼い方をするなら除角は避けられませんが、私は自然な飼い方をする道に進んだので、二度と除角はしません。