牛乳の殺菌方法にはいろいろある
牛乳の原料となる生乳には、さまざまな細菌が含まれています。乳酸菌のようないい菌もいれば、大腸菌やその他の菌などの有害な菌もいます。そのため、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(乳等省令)において、生乳に熱を加えて有害な細菌を死滅させ、安心して飲める牛乳にすることが定められています。日本では、次の4つの殺菌方法に分けられます。低温保持殺菌法(LTLT)、高温短時間殺菌法(HTST)、超高温短時間殺菌法(UHT)、無加熱殺菌牛乳(特別牛乳)などがあります。スーパーの牛乳の表示を見ると、130℃2秒間などと記載されているものが多いのではないでしょうか。これは超高温短時間殺菌法に当てはまります。それぞれの殺菌方法について、説明していきます。
低温保持殺菌法(LTLT)
63~65度で30分殺菌する方法です。もともとはワインの異常発酵や腐敗を防止する方法として開発された方法を牛乳の殺菌に応用した方法です。ルイ・パスツールという学者さんが開発したので、彼の名前をとって低温殺菌することをパスチャライズといいます。つまり、パスチャライズ牛乳とは、低温殺菌された牛乳のことですね。低温ですので、牛乳に含まれるタンパク質の熱変性を起こしません。そのため、焦げ臭さがなく、生乳に近い豊かな風味があり、後味がさわやかです。難点は殺菌に30分という時間が掛かることから、大量生産に向いていないということです。また、賞味期限も1週間程度と短いです。生ものと考えれば仕方のないことかなと私は思いますが・・・。
高温短時間殺菌法(HTST)
72~85度で15~40秒間殺菌する方法です。80度以上になると牛乳中のタンパク質の熱変性が急速に進んでしまうことから、現在では72度の温度で15秒程度殺菌されることが多いようです。この方法は低温殺菌ほどではないですが、生乳に近い風味が残ります。しかも殺菌時間が比較的短いために大量生産にも適しているといえます。世界的に見ると、この殺菌方法が最も多く採用されています。
超高温短時間殺菌法(UHT)
120~135度1~3秒間殺菌する方法です。この牛乳の最大の特徴は、腐敗性の高い牛乳の保存期間が延ばせることにあります。しかしそれによって乳酸菌など良性な微生物も死滅してしまいます。本来は常温長期保存できる船舶などの牛乳のために開発された方法のようですが、低温の殺菌方法よりも大量生産に向いており、賞味期限も2週間程度と長くなるため、日本の市販牛乳のほとんどすべてがこれです。
出典:「放牧酪農の展開を求めて
ー乳文化なき日本の酪農論批判ー」柏久著
乳文化が成熟している国では、諸手を上げてUHT牛乳を利用しているわけはなく、気温が高く、腐敗の進行が早い地域で仕方なく利用しているという状況です。しかしそれでも、UHT牛乳のヨーロッパ諸国における最高のシェアはイタリアの53%です。対して、日本は98%がUHT牛乳です。日本の数値がいかに異常であるかがお分かり頂けると思います。
無加熱殺菌牛乳(特別牛乳)
非常にレアですが、加熱殺菌をせずに、牛から搾った生乳をそのままパッケージした牛乳です。これは乳等省令では特別牛乳に分類されています。殺菌をしないので、当然のことながら非常に高い衛生状態を保たなければなりません。保健所の厳しい指導をクリアして、認可を受けた施設でのみ生産できます。国内では数軒だけが生産しています。低温殺菌と超高温殺菌牛乳を飲み比べたら・・・
以前、遠方から友人が訪ねてきたときに自然放牧+低温殺菌されている牛乳と一般の牛乳を目隠しして飲み比べたことがありました。差は歴然としていて、風味から味から全然違いました。一般の牛乳を先に飲むと、いつものだなという感じでしたが、低温殺菌牛乳の後に飲むと、味がぼやっとしていて、不快な後味が残りまずく感じました。これは牛乳に限らずだと思いますが、本物と大量生産用に作られたものとでは味が全然違いますね。
例えば、本来の醤油の原料は大豆と小麦、塩とこうじです。対して、スーパーに置かれているほとんどの醤油は化学調味料で醤油に似せただけの「醤油風調味料」といってもいいような代物です。裏のラベルを見られたら驚かれるでしょう。甘味料、酸味料、増粘多糖類、着色料、保存料etc。
舐め比べをしてみたら、味の違いははっきりと分かります。本来の醤油は味がはっきりとしていて、少量でもとてもしょっぱいです。醤油風調味料は味がぼやってしていて、しょっぱさが足りません。これが1本1000円の醤油と258円の醤油風調味料の違いなんですね。
ちょっと話しが逸れてしまいましたが、本来の風味をそこない、有用な菌も死滅させてしまうUHT牛乳が圧倒的シェアを占めている日本の現状を理解いただけたのではないでしょうか?消費者はこういったことを知る機会がなかなかありません。
低温殺菌法はあまりにも時間が掛かりすぎてしまいますが、72度15秒の高温短時間殺菌法でも低温殺菌と同等の結果が得られるわけですし、これが国際的な基準でもあります。消費者が正しい知識を得て、乳業メーカーに求めていくことで、健全な牛乳が市場により多く普及していくことを期待します。