増え続ける耕作放棄地の問題
昨今、耕作放棄地が増え続けていることが問題となっています。耕作放棄地とは、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地」のことです。耕作放棄地の面積率は平成2年の21.7万haから平成27年には42.3万haと約2倍に増加しています。我が国の食料自給率は先進主要国の中で最も低い39%です。国際的な食料事情は今後ますます不安定化すると考えられますので、優良な農地はしっかりと確保される必要があります。耕作放棄地の所有を農家の分類で見ると、土地持ち非農家と自給的農家が増加傾向にあり、約7割を占めています。また、地域別にみると、中山間地域の耕作放棄地が増加傾向にあるようです。
耕作放棄地が増えると、過疎化や高齢化がますます進む
過疎化や高齢化によって農業者が減少すると、農地の管理が不十分になります。そして農地が不十分になると、耕作放棄地や荒廃農地が増加していきます。こういった場所が増えると、野生獣に隠れ場所と餌場を提供することにつながります。そして、野生獣による農作物や生活被害が多発するようになると、生産環境や生活環境はますます悪化して、生産意欲や地域活力は低下するという悪循環に陥ります。こうした問題を解決するために和牛放牧が注目されています。放牧は手間が掛からない、経費が掛からない、難しい技術も必要ない「3いらず」の方法と言われています。草がぼうぼうに生えた広大な荒れ地を人力で整備するのは容易ではありません。ですが、牛を放牧すれば、勝手に草を食べて、きれいにしてくれます。たったこれだけのことが思わぬ副産物的効果を生み出してくれるのです。
耕作放棄地への放牧効果
まず、「景観保全と農地の復元」という効果があります。人の背丈以上に雑草が生い茂った農地が、美しい田園風景を取り戻します。牛がのんびりと草を食べている風景はのどかで安らぎを与えてくれます。次に、イノシシやサルなどの「獣害の抑制」につながります。これらの動物は牛を恐れるわけではありませんが、耕作放棄地が解消されて見通しがよくなると警戒心の強さから通らなくなるのです。またエサにしていた野草がなくなるので、野生動物たちにとってあまり魅力のない場所になります。荒れ地がきれいになって、人が訪れるようになることも野生動物への牽制となります。
さらに、「地域農業の活性化」の効果も期待できます。荒れた農地がきれいになり、獣害が減少すれば、もう一度生産しようと思う農家が出てきます。また、田舎暮らしを望む定年帰農者が繁殖牛の放牧を新たに始めたり、集落が繁殖牛を購入して放牧を取り入れる事例が各地で生まれています。私が住む島根県大田市水上町にも「三久須放牧組合」という集落単位で放牧を取り入れている事例があります。
牛を放牧することで、「中山間地域の活性化」にもつながります。牛を見ようとして子どもたちや地域の人が集まり、地域の憩いの場が生まれやすくなります。また地元の自治会やPTAが、地元の伝統行事を活かした牛の歓迎会や花田植えなどの行事を行い、地域の絆が強くなります。
最後に、「畜産と食料自給率への貢献」について說明して終わりにしたいと思います。耕作放棄地の草を有効利用することで飼料自給率が高くなります。このことは穀物価格が高騰する昨今の畜産情勢において、飼料費の節約につながります。また、放牧することによって、糞尿処理の労力も大幅に軽減できるので、畜産農家の経営改善に貢献します。
さらに、放牧することによって牛が健康になり、繁殖機能が回復するという効果も確認されています。耕作放棄地への放牧は、牛にとっても、人にとってもいいこと尽くしですね。
地方の過疎、高齢化は今後ますます厳しくなっていきます。私が住む集落でもほとんどが高齢者ばかりです。あと10年もすれば、集落の草刈りに参加できる人も数人になるでしょう。耕作放棄地への放牧がより取り組みやすい支援制度ができることを期待します。