野生化した牛はいるが、野生の牛は現存しない
私たちが飼っている牛の本来の行動を知りたいと思ったとき、野生状態の牛の行動を見るのが望ましいと思います。それをそのまま再現することはできませんが、可能な限り牛本来の習性を尊重してあげたいと思うからです。でも、残念ながら世界中に野生牛は現存していません。
野生牛はいないですが、一旦家畜化された牛が野生状態に戻った郡は世界の各地に存在しますし、実は日本にもいます。鹿児島県トカラ列島の口之島には野生化した和牛が住みついています。
これらの牛の行動については研究報告があり、その研究結果から、牛本来の行動を推測された本があります。『乳牛の行動と郡管理』という本にうまくまとめられいましたので、私なりに要点を書いていこうと思います。
野生化した牛から推測される牛本来の7つの行動特性とは
まず、一つめの特性は、「母性社会」であることです。年間を通じて安定した群れをつくるのは雌で、群れは雌とその子牛で形成されます。生まれた子牛は雌であればそのまま群れに残り、雄であれば成長とともに群れを出ていくか、もしくは種雄(お父さん牛)に追い出されてしまいます。二つ目の特性は「雄はハーレムを作る」ということです。基本的に群れの中には成熟した雄は1頭だけが君臨します。他の雄が近づくと威嚇して追い払うか、激しい闘争によって決着をつけます。子牛のうちは雄であっても、群れに溶け込んでいますが、大きくなると追い出されます。種雄が怪我をしたり、弱かったり、年をとっていると、他の若い雄にとって変わられます。
三つ目の特性は、「雄は実質的なリーダーではない」です。ハーレムを形成しますが、実際には繁殖以外での役割は薄いです。群れのリーダーはたいていは年老いた雌牛がつとめます。群れを採食場所に案内したり、危険を避けるように導いたりします。四つ目の特性は、「周年繁殖」です。繁殖のシーズンはありますが、年中子を生むようです。
五つ目の特性は、「出生直後の子牛は草むらなどに隠れる」です。馬や羊などは出生直後から子供を連れて歩きますが、子牛は終始母牛について歩くわけではありません。生まれてすぐの子牛は、母牛が採食している間は、草むらの中に伏せてお留守番しています。母牛は授乳時に子牛のところに戻ってくるという具合です。
六つ目の特性は、「必ずしもはっきりとした群れを持つわけではない」ということです。牛は群れの動物として知られていますが、森林に住むガウルや口之島の野生化した牛ははっきりとした群れを持たないようです。
最後に七つ目の特性は「牛同士の闘争は基本的に死に至るものはない」ことです。秩序を保つために優先順位決めの闘争は起こりますが、死に至るものはありません。ただし、雄同士の闘いは非常に激しいようです。負けてしまうと群れから追い出されて子孫が残せないので激しくなるのも納得ですね。
自然放牧のイチローファームと野生化した牛の違い
周年自然放牧をしている我が家ですが、やはり野生化した牛とは少し違うなと感じる部分がありますね。小規模だからかもしれませんが、「母性社会」という感じではなく雄と雌も一緒に家族として暮らしているように見えます。種牛が複数の雌と関係を持つハーレムというのは我が家も一緒です笑リーダーというのも年老いた雌というわけではないですね。雄は、危険があると群れを守るために闘います。以前、近所の犬が雌牛を追いかけたことがありましたが、私が止めに入ろうと動く前に雄牛が犬に突っ込んでいきました。普段は大人しくてのんびりした雄牛ですが、仲間の危機には真っ先に動きます。知らない車などが数台で牧場にきたときは、先頭をきって退散していったこともありました。
逆に、普段のエサやりの時間をや新しい放牧地に放したときには、群れで三番目の牛が先頭をきって動きます。この牛はリーダーというよりも好奇心が強いからという印象です。
周年繁殖については野生の牛と同じです。周年自然放牧、自然交配をしていると、4~6月に受胎する傾向が強くなるようです。これはお産の時期を1~3月にして、子牛が離乳する頃にちょうど青草が生えてくるというタイミングです。自然の仕組みはうまくできているなぁと感心します。
子牛が草むらに隠れるというのもその通りですね。ただし、母牛以外の雌牛が代わりに面倒をみている時は隠れていないときも多いです。群れについては、飼われている牛は群れで行動しています。狭い範囲でみると、仲間ハズレにされている牛もいますが、広くみると群れとして行動しているようにみえます。
牛同士の闘争、これは除角されているかいないかでも大きく異なるのかなと思います。角があると、雌同士の順位争いの闘いもかなりの迫力があります。睨み合い、一瞬の間の後に空気が揺れるほどのぶつかり合います。雄同士の本気の闘争はみたことがないですが、雌同士の争いだけでお腹いっぱいです笑
生き残り、子孫を残すという競争の中では牛同士であっても容赦ないですね。強い牛から優先的に食べ、弱い牛は十分に食べられないので、余計差がつきます。弱い牛は病気や怪我も多いので、自然に淘汰されていきます。
そうした過酷な競争に勝ち残った牛だけが生き残ってリーダーとなり、群れを導くんでしょうね。たくましい野生の牛への憧れはありますが、我が家の愛牛たちはみんな揃って元気に幸せに長生きしてほしいです。