牛は美味しいものが好き
牛は本来は草食動物ですが、お乳をたくさん出してもらうために栄養価の高いものを与えます。最近では、TMRという粗飼料と配合飼料を混ぜて、一緒に与える農場が多く見られます。しかしながら、牛も人間と同じように好き嫌いがあり、美味しいものが好きです。配合飼料は牛の嗜好性が高いので、配合飼料ばかりを選んで食べてしまう牛が出てきます。そうすると胃の中の繊維分が不足してしまい、胃の中のpHが下がります。
それが極端に進むとルーメンアシドーシスという病気になってしまうこともあります。これは穀物飼料の食べ過ぎによって、胃の中が酸性化し、微生物が死んでしまうことで栄養をうまく吸収できず、消化不良になる病気です。生産性や繁殖成績が低下し、最悪の場合は死んでしまうこともあります。
重曹の役割
このような病気を防ぐためには、選び食いさせないように工夫をすることが必要なのは言うまでもありません。また、水槽を清潔に保って水分で予防することも有効です。そして、重曹を給与するか、いつでも好きな時に舐められるようにします。重曹はアルカリ性ですので、胃の中のpHが6以下にさせないようにすることが目的です。牛の胃の中のpHを酸性よりからアルカリ性に戻してあげるために重曹を給与することが必要になるのです。
ちなみにイチローファームでは重曹の給与はしていません。我が家では配合飼料は与えずに、補助的にビール粕系の濃厚飼料を少しだけ与えています。一年中放牧し、粗飼料主体のエサを与えているので、pHの調整をあえてしてあげる必要がないからです。もちろん清潔な水槽に毎日新鮮な水を入れ替えしています。
重曹をあげずとも、この約2年間で獣医さんを呼んだのは一度だけです。夏の暑い時期にお産があり、熱中症で体調を崩してしまった牛が1頭だけいました。牛たちに自然の力をはるかに超えるパフォーマンスを出してもらうためには重曹にかぎらず、高度な知識や経験が求められているのが現代酪農なんですね。
分娩前後に重曹を給与するとオス子牛が多く生まれる!?
重曹の役割について、ちょっとおまけの話があります。以前、現代農業という書籍で紹介されていたのですが、和牛では重曹を毎日給与するとオスが生まれやすく、乳牛では重曹給与をやめるなどしてルーメン内のpHを下げるメスが生まれやすくなるそうです。理由は忘れてしまいましたが汗。一般の方にはあまり知られていないと思いますが、お肉になる和牛の子牛は去勢(オス)のほうがメスよりも平均価格が高いのです。なので、和牛農家さんではどうしたらオスが生まれるのか悩まれています。