牛は5頭としか仲良くなれない
正常行動の中には攻撃や威嚇などの敵対行動も含まれます。しかし、アニマルウェルフェアの考え方では、敵対行動はアニマルウェルフェアを損なう行動として捉えられています。それでは敵対行動はどのような時に起こるのでしょうか?それは牛群が安定していないとき、エサや休息場所が限られているとき、また飼育密度が高いときに多く発現します。確かに好ましい状況とは言えなさそうですね。
敵対行動と対極に親和行動というものがあります。相手牛の頭や首、肩をなめるグルーミングなどが良く知られています。親和行動を受けている牛は、その間の心拍数が低下するなど、その行動には心理的な安心効果があるようです。結果的に育成牛の増体が向上するという報告もあります。親和行動に基づいて形成される社会関係を親和関係といいます。
牛は群れの動物ですが、群れの中にいる全ての牛と親和関係を築けるわけではありません。信州大学農学部の研究では、牛は平均すると5頭程度の相手としか親和関係を形成できないそうです。他の牛とは単なる顔見知り程度ということですね。
確かに放牧地の牛たちを思い返してみると、一緒にいる牛の組み合わせは大体が同じでした。幼馴染の牛や年齢の近い牛、親子などが一緒にいることが多かったです。群れ全体の中にいくつものグループができていました。
名前をつけると生産性が上がる
乳牛の研究では、牛に声をかけたり、優しく撫でたりといった行動をとると乳量や乳質が向上するという結果が出ています。また、名前は忘れてしまいましたが、イギリスのある大学の研究では、名前が付けられている牛は、名前が付けられていない牛よりも乳量が多くなったと報告されています。これはどう考えたらいいのでしょう?牛に名前を付けることは、単に可愛がるというだけではありません。必然的な流れとして個別管理が徹底され、牛に対しての注意力や観察力が高まるという効果が期待されます。
経済動物に名前をつけると情が移るからダメだという考え方も根強いと思います。でも、乳量や増体が明らかに増えるのであれば、牛にとっても人にとっても名前を付けたほうがいいのではないでしょうか。経済動物なんだと割り切るのであれば、経済性を追求できて、しかも牛にとっても嬉しいことを避けるべきではないと私は思います。
牛に名前をつけない大牧場、牛に1頭1頭名前をつける小規模な牧場のどちらでも働いたことがあります。これはどちらがいいという意味ではないのですが、名前をつけられている牧場の牛たちは感情が豊かな印象を受けました。
本来、群れの動物としてあまり「個」を意識していなかったのに、名前を付けられたことで「我」が出てきて、はっきりとした自らの意志をもっているように見えます。どちらがいいのかは人それぞれだと思いますが、私は後者の牛のほうが好きです。