牛は暑いのが苦手!?

草原の中で草を食むホルスタイン乳牛の姿は、たとえ直接見たことはなくても牛乳パックのデザインでおなじみの光景ですよね。でも、乳牛にとっては強い日差しを遮るものがない草原に放牧されることは負担になることもあるのです。


ホルスタイン乳牛が暑さに弱い3つの理由

日本で飼われている乳牛の99%はホルスタイン種ですが、原産地は冷涼な気候のドイツやオランダです。ですから、遺伝的に高温時の体温調節機能が低く、高温多湿な日本の夏はホルスタイン乳牛にとっては過酷な環境条件であるといえます。これが一つ目の理由です。

二つ目の理由としては、乳牛は体内で発する熱量がとても多いということです。なぜなら自分の子牛が必要とする量よりもはるかに多量の乳を出すように改良されてきた動物であるため、大量の飼料を摂取し、体内で消費しているからです。この栄養素が体内で分解されるときに多くの熱が発生するというわけです。

乳牛は恒温動物です。常に体内で熱を生産し、同時に熱を放出しています。生産される熱量と放出される熱量のバランスがとれている場合は、体温を一定に保つことができます。しかし、熱量のバランスが崩れると体温は上昇し、生理機能や生産機能が低下してしまいます。これについては後述します。

三つ目の理由としては、熱の放出が苦手であるということです。牛は汗腺機能がよく発達していないので、暑い時は、効率の悪い呼吸気道からの熱放出にたよらざるを得ません。つまり、呼吸を速めたり、呼吸量を増やして呼吸気道からの熱放出をするのです。猛暑の時など、犬のように舌を出して呼吸している場合もあります。

以上、遺伝的な体質、熱生産量が多いこと、そして熱の放出機能が発達していないことの3つの理由により、乳牛は暑さに弱いということができます。次に高温時の生理機能や生産機能の変化について見ていきたいと思います。


高温時の乳牛の変化

春から夏にかけて、気温が上昇し始めるとモコモコした冬毛が抜け、夏毛に変わります。そして皮下脂肪は薄くなり、夏の暑さに対応できる準備が整います。体内では血流の変化によって、体表に多くの熱を運んで放出しやすくなります。暑さに弱い乳牛なりにしっかりと準備をしているんですね。

最も目立つ変化としては、呼吸数の増加です。さきほど申し上げたように、発汗機能が発達していないため、呼吸機能による熱放出に頼っているのです。涼しい春や秋には、1分間あたりの呼吸数はおよそ12~15回程度ですが、夏には数十回になります。とくに暑い日にはよだれをともなう苦しい呼吸になることもあります。

これでも熱を放出しきれないと体温が上昇します。成牛の平常時の体温は38.5℃程度ですが、39℃を超えるようになり、時には40℃以上になることもあります。ここまでくるとさまざまな影響がでてきます。

まず最初に現れる影響は、『食欲の減退』です。これは熱生産をい減らすために熱源の供給を抑制する反応でもあります。粗飼料をあまり食べなくなり、続いて濃厚飼料もいやいや食べるようになります。こうなると、第一胃の中にいる草の繊維分を分解する微生物の活性が弱くなり、飼料の消化吸収能力も低下します。これが生理機能の変化です。

また、生産機能にも影響があります。暑さに加えて、日射や湿度、無風などの悪条件が重なると乳量が1割以上低下することもあります。さらに子宮温度が39℃を超える状態が続くと受胎率が低下すると言われます。高温により発情が弱くなり、不妊が増えてしまいます。当然ですが、妊娠出産をしなければお乳を搾れないので経済的損失は大きいです。


夏の暑熱対策

これまで見てきたように乳牛は暑さに弱く、高温時には生理機能、生産機能に多大な影響を及ぼすことが明らかです。こうした状況から牛を守るために、畜産農家は畜舎の換気をよくしたり、日射を避ける日よけを設置したします。まら、送風機や噴霧装置を置いて、送風と散水により牛体からの熱放射を助けたりしています。エサやりを涼しい朝や夜間に行うのも有効ですね。

イチローファームでは、放牧地の一部に竹林があります。早朝に餌やりを済ませているので、真夏の暑い日には朝の7時くらいになると牛たちは竹林に退散していきます。また、夏にはアブやハチ、ハエなども負担になります。少しでも牛たちのストレスを減らせるよに暗くなってからエサやりをするよう配慮しています。


夏に生産量が落ちるのは当たり前

イチローファームでは周年自然放牧、自然交配、自然哺乳をしています。そうすると牛たちは4月~6月くらいに受胎することが多いです。人工授精よりも受胎率は高くなります。牛の妊娠期間は約280日ですから、1~3月に出産します。3ヶ月くらい経ち、乳離れをする頃には青草が伸び始めているというわけです。

乳量のピークは出産後2~3ヶ月頃です。泌乳期間中、一定量が出るわけではなく、子牛の成長に合わせて変化していきます。自然のサイクルに任せれば、夏の負担が大きい時期に入る前には乳量のピークもが過ぎており、牛の負担も減って長生きするかもしれません。

夏はアイスクリームなどの需要が伸びるので、人間にとっては乳生産量を落としたくない事情があります。でも、それは自然の摂理に反することです。動物たちは自然環境に適応して生き残ってきました。

自然に近い飼い方をすることで、牛たちの負担を減らし、元気に幸せに長生きしてもらえるかなぁと思っています。そういった考えに共感してくださる方に乳製品を提供できるよう頑張っていきます!

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